宇宙をかける少女_ss『笹の葉揺れる、7月30日』 / テレビアニメ





昨日のナミ視点のやつと対になっているお話。
ええ、構成やら何やらが似ているのはあくまでそのせいです(断言)。分量が違うのは・・・気にしない方向で(自爆)。
アメブロにあげた時は、ナミの誕生日だったんですよねー、何だか懐かしいなぁ。
その割に彼女の台詞がまともに無かったという・・・
では、恒例の注意書きを。
本編との矛盾を見つた際は、スルーで。
では、続きから。
「さーさのーは〜、さーらさら〜」
とある家の庭で。
小さな女の子が一人、黄色い短冊の下げられた笹を見上げてうれしそうに歌っていた。
七夕であればごく当たり前の風景だ。人類は地球を出でて宇宙に暮らすようになっていたが、それは変わらない。
ただし、時期を外していなければ、の話だが。
本日、軌道暦297年7月30日。七夕はとうに過ぎていた。
笹の葉揺れる、7月30日
「のーきーばーに、うーれーるー」
さらに歌詞も間違っていた。
「ねえ、秋葉ちゃん」
ご機嫌で歌声を響かせる女の子に、声をかける者がいた。その子と同い年ぐらい――3歳くらいだろう――の、男の子だ。
「なあに、フリオくん?」
名前を呼ばれ、さすがに女の子――秋葉も歌うのをやめて振り返る。
「タナバタのお祭りなら、この前終わったのに。なんでまだ笹の葉もってるの?」
もっともな質問だ。
だが、秋葉は意に介した様子はまるで無い。顔いっぱいに喜びを表し、元気に答える。
「だって、今日なんだって! おねえちゃんたちがね、今日には会えるよって!!」
威勢はいいが、言いたいことは伝わってこない。
かろうじてわかるのは、彼女の二人の姉の言葉が発端になっているらしいということだ。
大好きなおねえちゃん達の言ったことに、この末妹が過剰に反応するのは珍しく無い。
なので疑問は解消されないも、フリオは「ああまたか」と納得する。
獅子堂の三姉妹とはそれぞれ同い年の姉と兄がいることもあって、生まれた時から付き合いがある。
秋葉も物心つく前から知っているので、フリオにすれば彼女の言動にもそれなりに慣れというものがあった。
こういう時の応対も、心得ている。
「うーんと、今日はだれかに会える日なんだ?」
「うん!」
推測で言ってみたが、どうやら合っていたようだ。
すると、笹の葉の由来は・・・
「その人が、なんかタナバタに関係あるってこと?」
「うん!」
満面の笑顔で頷く秋葉。件の人物に会えるのが、よっぽどうれしいようである。
「なんていう人?」
「うん?」
秋葉は首をかしげた。質問が伝わらなかったのだろうか。
「えーと、今日会う人の名前は?」
「ないよ!」
「え?」
わからない、ということだろうか。それにしては、自信満々に「ない」と言いきっているが・・・
理解が追いつかないことをフリオの表情で察してくれたのか、あるいは聞いて欲しいだけか、ともかく秋葉は説明に入ってくれた。
「お名前はね、まだ無いの。でもきっと、ステキなのに決めてくれるよ!」
「・・・・あー。そう、なんだ・・・・」
その説明では、何がなにやら。
これはちょっと自分ひとりではムリかもしれない、とフリオは思った。
風音さんか高嶺さんに聞いた方がいいかな。エルお姉ちゃんかエミリオお兄ちゃんも、何か知っているかもしれない。
そんな彼の願いを笹が叶えてくれたというわけでもないだろうが。
「秋葉〜、戻ったわよー」
「たかねおねえちゃん!」
門のほうから歩いてくるのは、秋葉の姉達。
今日は彼女達が出かけている間、秋葉と遊んでやってほしいとフリオは獅子堂家に呼ばれていた。
なんの用事かまでは聞いていなかったが、それは無事に片付いたようだ。
今しがた声をかけた高嶺と、その後ろには何か白いものを抱えている風音の姿がある。
二人を見た瞬間、秋葉は笹を放り出して駆け出した。フリオも慌てて後に続く。
「待ってよ、秋葉ちゃん。そんなに急ぐと・・・」
ずてんっ
その忠告は、少し遅かった。
足をもつれさせたのか石にでもつまづいたのか、思いきり転んだ秋葉は顔面を地面にこすりつける羽目になった。
――うわあ、これは泣くな・・・
そんな彼女に追いつき手を差し伸べながら、フリオはどこか冷静にそう思う。
要するに、これもよくあることなのだ。
こうなった時の秋葉は、フリオやメイドがいくらなだめてもダメで。
両親か姉達が来てくれるまで、泣き続けてしまうのだ。
でも、この日は違った。
「大丈夫よね? 秋葉」
前を歩いていた高嶺が慌てて駆け寄るが、長姉の方は落ち着いた様子で声をかける。
瞳をうるませ今にも泣き出しそうな秋葉だったが、風音の声に唇をぐっと引き結ぶと。
「だいじょうぶ!」
そう力強く宣言して、フリオの手をつかむ事無く一人で立ち上がった。
「えらいじゃない」
さほど距離があったわけでもない。妹の傍に着いた高嶺が少し驚きながらも、秋葉の身体についた土を払ってやる。
そうするうちに、風音の方も3人の元に着いた。
「当然よね。だって秋葉はもう、『おねえちゃん』なんだから」
そう言って姉妹の最年長は、抱えていたものを傾けてみせた。
『わあ!』
3歳児二人の驚きの声が重なる。
それは、赤ん坊だった。
まだ目も開いていない生まれたばかりの小さな赤子が、白いおくるみに包まれて眠っている。
そういえば、とフリオはようやく思い出した。
秋葉の家は、もうすぐ赤ちゃん――四番目の子どもが生まれることになっていた。
おねえちゃん子の秋葉は、自分が姉になると知った日は、それはもう喜んで。
その話を何度も何度も、飽きるほどフリオに聞かせたものだった。
「はじめまして。えーと・・・」
妹にそっと語りかける秋葉だが、言葉を詰まらせて姉を見やる。
長女と次女は「わかっている」というように頷いて、姉になりたての三女に告げた。
「ナミ、よ」
「獅子堂ナミ。いい名前でしょ?」
「ナミ・・・」
その感触を確かめるように、秋葉が静かに呟いた。
「よろしくね、ナミ。アタシは、秋葉。アナタのおねえちゃんだよ」
幼児の小さな指と、乳飲み子の小さな小さな指がそっと触れ合う。
同い年の割りに子どもっぽい秋葉が何だか少しおねえさんらしくなったように見えて、フリオは少し驚いた。
微笑ましいシーンを、今日より四姉妹となった姉達もうれしそうに見守っている。
でも、そういえば。
「今日は赤ちゃんに会える日だっていうのはわかったけど・・・それとタナバタって何か関係あるの?」
「七夕?」
「うん。さっき秋葉ちゃん、あの笹持って歌ってたんだよ」
「これ、幼稚園でもらったものよね。・・・あら、短冊もついてる」
手の空いている高嶺が、笹を拾い上げて言った。
妹に夢中の秋葉に変わり、フリオが説明する。
「ねがいごとを先生に言って、書いてもらったんだ。大きくなったらなりたいものをお願いしたんだよ」
「そうなの。将来の夢ってことね・・・」
「おほしさまは、ずーっとずーっと遠くにあるってお兄ちゃんが言ってたんだ。ひかりのはやさでも、行くのに何年もかかるんでしょ?」
「ええ、そうよ」
「だから、オトナになったときのことをおねがいすれば、きっとちょうどいいよねって、秋葉ちゃんとお話して・・・それを書いてもらったんだ。ぼくはね、せいぎのヒーロー!」
「へえ・・・」
「で、秋葉は何てお願いしたのかしら?」
意味ありげに呟く高嶺の様子に興味を引かれたのか、風音もやってきた。
秋葉はの方は、ベビーベッドに寝かされたナミをじーっと見ている。
「はい」と高嶺に笹を手渡され、風音は黄色い短冊を覗き込んだ。
「『ステキなおねえちゃんになれますように』・・・ね。大人になった時のお願い事じゃなかったの? やりたい仕事とか書くものじゃないかしら」
「いいの!」
風音の独白に、再度庭に出てきていた秋葉がきっぱりと言った。
流石に寝ている赤ん坊相手では何をすることもできず、出てきたらしい。
「アタシは、すてきなおねえちゃんになりたいの! オトナになってやることは、おほしさまじゃなくてジブンでなんとかするからいいの!」
「ふふ、たのもしいわね」
背伸びする妹に微笑む高嶺を、風音がからかう。
「そういう高嶺だって、秋葉が生まれた時には『この子は私が守る!』って張り切ってたじゃない」
「ええ!? 自分だって5歳でしょ! そんな頃のことなんて・・・」
「ちゃあんと覚えてるわよ〜」
「う、嘘!」
「うええええええ・・・」
賑やかな姉たちのやりとりから取り残されて寂しくなったのか、目を覚ましたナミが泣き出した。
秋葉を先頭に、駆け寄る姉妹。
顔を上げたフリオの視界に、こちらにやってくる姉と兄の姿が入ってきた。生まれた赤ん坊を見に来たようである。
こうして、獅子堂家にはますます笑顔と笑い声があふれ・・・
これが、軌道暦297年の7月30日。
獅子堂秋葉が、初めて『姉』になった日。
「う・・・」
夢から醒め、一人の少女が目を覚ます。
カークウッド6号島私立スール学園2年C組、獅子堂秋葉。
大財閥・獅子堂の五姉妹の三女で、花も恥らうお年頃。
しかし、そんな秋葉の本日の目覚めはあまりよろしくないようだった。
その原因は、彼女が現在抱えているとある悩み事だろう。
かといって眠れない夜を過ごすなどということはなく、ぐっすり寝て夢まで見てしまった。
その内容までは覚えていないが、その辺はいい。
っていうか、彼女は今悩んでいるのだ。そっちの方が大事である。
「あー・・・結局、決まらなかった・・・」
昨晩遅くまでイモちゃんと相談したが、結論が出なかった大問題。
「ナミの誕生日、もう今日だよ・・・。プレゼント、どうしよう・・・」
「大丈夫です、お嬢様! 授業が終わってから、夜のパーティーまでは時間があります! それまでにプレゼントを用意しましょう!」
「あ、おはようイモちゃん。そうだね。それしかないよね・・・・」
朝から元気なイモちゃんに励まされ、気を取り直す。
そこに。
「わーい、秋葉っち〜!」
ナミの2年後に生まれた秋葉のもう一人の妹・桜が扉から乱入してきた。
「わ、桜! ・・・そっか、パーティーのために帰ってきてたんだっけ」
皆それぞれ違うことに没頭している今、姉妹たちは全員一緒の家で暮らしてはいない。
5人全員が揃うのは、誕生日などの数少ない機会に限られる。
「桜はナミのプレゼント決まった?」
「えーとねー、シャンシャンのー、ぷはぷはっと!」
「そっかー。桜、自分でいろいろ作れるもんね。いいなぁ・・・」
そんなやりとりをしながらパジャマから着替え始める。
その最中、秋葉はふう、とため息をついた。
桜の発明だけではない。長女の風音にも次女の高嶺にも、そしてナミにも得意なものがあって。
4人とも、その分野で大いに活躍している。
自分にだけ、それがない。
アタシは、何をしたらいいのだろう。
それは、もう何年も考えていることだった。
けれど、その答えは一向に出ない。
そもそも、自分は考えることは苦手なのだ。いっそ諦めて、成り行きに任せてしまおうかと思うこともある。
でも、それではダメなのだ。
これは、自分でどうにかしなくてはいけない。
理由はわからないが、そんな気がする。
だから・・・
「・・・お嬢様?」
「ううん、なんでもない」
着替え中に手を止めた自分に、イモちゃんが不思議そうに声をかけてきた。
慌てて再開する。
自分のやりたいことは、まだわからない。
特に最近は、レオパルドに振り回されて、考える暇もないくらいだ。
けど、妹のプレゼントくらいはしっかり決めないと!
「よし! がんばらなきゃ!」
「はい!」
「おー!」
「自信、ないけど・・・・」
「失速するの早いです、お嬢様! プレゼントは、気持ちが一番大事なんですから!」
「そう、だといいなぁ・・・」
「うー?」
「大丈夫です、思いはきっと届きますよ!」
「やっほーい!」
「うん。イモちゃんも桜も、ありがと」
そんな会話が行なわれている秋葉の部屋。
そこから、少し離れた別室では。
「あらナミ、もう起きたの? 今朝は早いのね」
「・・・風音おねえちゃん。なんか、秋葉の部屋が朝から騒がしいんだけど・・・」
「あの子の部屋の音、そんなにアナタのところまで聞こえたかしら?」
「普段はそんなことないんだけど、今日は妙に響くのよね・・・」
・・・・何やら、違うものが届いてしまったようである。
果たして、姉の思いは妹に届くのだろうか。
・・・・結論を言ってしまうと、見事に失敗することになるのだが。
秋葉の『姉』としての名誉のために、その辺にはあまり深く触れないでおく。
終わり
◆後書き
ドラマCDにナミの誕生日のお話があるので、それとつながるように書いてみました。つながる・・・はずです。
そのため、秋葉のテンションを低めで終わらせないといけなかったのが難しかったですねー。
授業前ぐったりしてた描写があったから、きりっと決意して終わると少しちぐはぐかなーと思いまして。
桜のプレゼントとか結局失敗(レオパルドが乱入してきたせいで)するとかいうくだりも、ドラマCDから拾って来たネタです。
って、レオパルドとも知り合いでいつきの正体も知ってる時期にナミの誕生日ってことは、学園祭の後の話なんですよね、あれ。
ナミの誕生日が7月30日だから・・・・スール学園の学園祭は、少なくとも秋ではないということに?
まあ、コロニーだから四季はないかもしれないですが・・・
それで、ネルヴァル側につく頃にはナミは15歳になってるってことなんですよね。
生まれたての赤ん坊を子どもだけで連れまわしているのは、未来のテクノロジーでカバーしてるのですよあれは。だからオッケーなんです。仮に日付が変わった直後に生まれてれば、半日以上は経過してることになりますし。
家のメイドがちっとも出てこないのも、気のせいなのですよ。ドラマCDでも出てこないし(出演者の都合とかいう話は聞こえません、ええ)。
恒例の言い訳はこのくらいにして。
本編の三女四女はすれ違ったまま終わりましたが、生まれつき仲が悪かったわけではないはず。
秋葉なんて、憧れのおねえちゃんが二人もいて、そこに妹が生まれた日にはすごくかわいがると思うのですが・・・・
対抗馬がイモちゃんっていうのは、ちょっと相手が悪いのかな・・・・
そういえば、イモちゃんに初の出番がありました。
14年前にはやっぱりいませんが、この時期は彼女はまだ獅子堂家にいないはず・・・たぶん(どこまでいい加減なのか)。
物語前半の年齢は、風音さん8歳・高嶺さん6歳・秋葉&フリオ3歳・ナミ0歳です。6歳と8歳の口調は難しい・・・
SORA KAKE GIRL
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