スパイダーライダーズ_SS『キミの瞳はソラの色』4 / テレビアニメ


昨日に続く、4話目です。
ネタバレあるので、続きよりどうぞ。
『SDガンダムフルカラー劇場TM』の最新話読んだんですよー。テレまんがの夏号で。
その感想を書こうかとも思ったのですが・・・後日にします。
・・・あまりに衝撃的で・・・・時間を下さい・・・・。
目的地に到着して、コロナは足を止めた。
そこは、小さな山の頂き。山の両側の麓に向かって伸びる二本の山道がぶつかっている
故郷が見下ろせ、地上にも少しは近い(と言っても、そんなに高い山ではないので本当にちょっとだ)この場所で、今の自分を見つめなおそうとコロナはここへ足を運んだのだった。
見渡せるアラージャ村は、小さいながら人々が穏やかに暮らしている様子が雰囲気に現れていて気持ちが和む。
だが地上を思って空を見上げると、コロナは心が沈むのを感じた。
山頂にいたところで、遠い空。ハンターの生まれた地上は更にその向こうだという。
もちろんコロナは行ったこともなければ見たことさえなかった。
ハンターからの情報だけでは、思い浮かべることすらままならない。
地上世界は空が青いと聞かされたことがあったが、コロナにはとても信じられなかった。
空の色は緑に決まっている。彼女の常識からすれば、冗談としか思えない話だ。
本来なら、コロナが出会うことはなかった相手。たとえ一時であろうと、一緒にいられたことだけでも奇跡のようなものなのだろう。
そして奇跡は、永遠に続くものではない。いつかは終わりが来るのだ。
それが今日なのかもしれない。今朝の夢はそのことを自分に教えるため、オラクルの巫女の力が見せたものだったのではないか。
心に浮かんだそんな思いは、自然とひとつの結論を導いた。
――ハンターは、二度とこの世界には戻ってこないのだろう。彼を待つのは、もうやめよう。あきらめるんだ。
その言葉は、あまりにあっけなく出てきた。
今までの自分は、こんな簡単な答えに辿り着くのをよく押し留めていたものだ。
感覚がどこか麻痺してしまったのか、コロナは不思議と平静だった。
ただ、その心は乾ききっている。
涙を奥底に閉じ込めたことによって、彼女の心はカラカラに干上がってしまっていた。
『絶対あきらめない! それで、結果オーライにしてやるぜ!』
それでもなお断ち切れないわずかな未練が、かの少年のお決まりの台詞を胸に響かせる。
けれど。
――だったら、早くそうしてよ。今すぐ戻ってきて、結果オーライにしてよ!
叫びは心の中をこだまするだけで、虚しく消えた。
コロナは歯を食い縛り俯いて、余韻が完全に過ぎ去るのを待つ。
そして暫く間をあけてから、強張らせていた身体の力をようよう抜いた。
一息吐くことができて、やっと彼女は――
「おーい、村の人かーい?」
「きゃっ!」
気を緩めた刹那思いがけず声をかけられて、コロナは思わず悲鳴をあげた。
声がした方へ向き直ると、帽子にマントという格好の青年が斜面を登っているところだった。
見かけない人だ、とコロナは思う。と言っても、彼の顔はほとんど見えない。
青年の顔は身に付けているもので大半が隠れてしまっており、声も少しくぐもっていた。
それは、立てられたマントの襟が顔の下――口元くらいまでを囲んでいるためだ。更に目鼻より上の側は、広いつばの影になっていてよく見えない。
よくある旅姿、ではある。
しかし戦士としての習性が身体に染み付いているコロナは、正体のわからない相手をどうしても警戒してしまう。少しでも青年の情報を得ようと、頭を働かせ始めた。
言葉からも読み取れるが、彼はアラージャ村の人間ではないだろう。
青年が歩いている山道は、コロナが通ってきた道とは反対に伸びている。
その先にあるのはアラクナ城。村から城への最短ルート。しかし、使う者はほとんどいない。
直線距離としては近いのだが幾つも小山や丘を越えねばならず、山歩きに慣れていない人間には不向きな道だった。
よほど急ぐ理由がなければ、整備された街道を使うのが普通だ。
「わるいわるい、びっくりさせちゃったか?」
「い、いえ…」
広い帽子のつばでその表情は伺えなかったが、伝わってきたのは苦笑する気配。コロナは少し気恥ずかしくなって、愛想笑いを返した。
スパイダーライダーたる自分が悲鳴をあげるなど、見知らぬ人に情けない姿を見せてしまった。
そう思ったのだ。
が。
「あれ? コロナじゃないか?」
「え?」
名前を呼ばれて面食らう。
先程から続け様に不意をつかれ、コロナはどうやら無防備になっていたようである。
「誰だろう?」という疑問は如実に顔に出ていたものだから、青年にももちろん伝わってしまった。
しかし彼は怒ることなく、更に笑みを強めた。
「わかんないか? オレだよ、オレ」
「ええ?」
坂道を歩みつつ親しげに語りかけてくる青年に、コロナの困惑はより深まる。
と、急に吹いた強い風に砂埃が舞い上がり、コロナは反射的に目を瞑った。
突風が収まって目蓋を開き直すその時、彼女の狭まった視界を何かが素早く横切る。
その『何か』の正体は、青年の被っていた帽子だった。大きなつばが帆のように風を受け、コロナの足元まで飛ばされてきたのだ。
けれどそんなことは、今の彼女の眼中にはない。
コロナからすれば、そんなことはどうでもよかった。この瞬間何より大事なものは、彼女の正面に真っすぐ立っている『彼』をおいてほかにない。
強風の名残に揺れる、硬そうな赤毛。やんちゃさと呑気さ、二つの雰囲気を同時に持つ不思議な笑顔。
「ハンター…?」
頭に浮かんだ名前を口にするのに、コロナは声が波打つのを抑えられなかった。
もしかして、という期待に飛び付くには、もし違っていたら、という恐怖が大き過ぎる。
でも。
そんな心配は杞憂なのだと、彼の返事が教えてくれた。
「そう、ハンター。よかったー。忘れられたのかと思ったよ」
コロナの目の前で足を止めた彼はそう言いながら腰を屈め、先程飛ばされた帽子に手を伸ばしたところで。
彼女を見上げた。
二人の目が合う。
ハンターの空色――彼女にとって馴染み深いインナーワールドに広がる深緑の大空の方だ――を切り取ったような瞳に見つめられて、コロナはやっと目の前の彼が夢ではないのだと実感できた。
思わず飛び付きそうになるのを懸命に抑える。
小さな彼だ、そんなことをすれば潰れてしまうかもしれない。
それより、今まで一体どこで道草をくっていたのか、お姉さんらしく注意してやらなくては。
そう、しっかりしたところを見せないと。
――あたし、もう18歳なんだから。大人の落ち着きを…っていけない、さっきの風で髪の毛ヘンになってるかも!
慌ててコロナは後ろを向いて、髪だけでなく自分の格好におかしなところがないか確かめた(向き合った状態でやらなかったのは、そういう姿を見られたくないという女心が働いたからだ)。
会話中に突然相手に背を向けるあたり、彼女が如何に落ち着きを失っているかわかろうというものだ。ただし本人には欠片も自覚はない。
そんな風にあたふたしていた彼女は、顔に影がかかったことに気付いて「あれ?」と首をかしげた。
見上げた空は雲ひとつ無く、一面の緑が広がっている。太陽を遮るものは何もない。
その影をもたらしたものが背後にあることに気付いたコロナは後ろを振り返って――
愕然と、した。
地面に落ちた帽子を拾いあげ、背筋を伸ばして真っすぐ立ったハンターが自分を見下ろしている。
被り直した帽子の大きなひさしがそよ風に揺れると、彼女の顔に落ちた影もまた揺れた。
あの小さかった少年の頭は、今ではコロナよりずっと高いところにある。
その思いがけない事実にコロナは動揺を抑えられず、ただただ呆然とするばかりだった。
続く
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