鉄腕バーディー DECODE:02_SS『親愛なるあなたへ』/ テレビアニメ
『DECODE:02』最終回後の話。最終話ネタバレ有り。
最終回で盛り上がった勢いに任せて書いてしまいました。アニメ設定『鉄腕バーディー』小噺。
バーディー視点で、ナタルへの想いとつとむへの信頼。
色つきの文字は声に出したもので、黒字の心情描写は声に出さない独白です。あ、太字はタイトルになります。
カチ、カチ、カチ、カチ・・・・
時計の秒針の音が不意に耳に届いて、アタシは我に返った。
ずんぶん考え事に夢中になっていたらしい。時計の長針は、さっき見たときと頭を反対側に向けている。
空気の感じからすると、もうすっかり日も落ちているだろう。
「うううぅぅぅ・・・ぬううぐぐぐぐぅ・・・・」
つとむが握っている鉛筆がまったく動かないもんだから、つい時間の経過がわからなくなってたみたい。
親愛なるあなたへ
この間の文化祭に、中杉さんが神戸からやってきた。
だけどつとむはその時、とある事情から学校を空けていて、彼女とは再会できずじまい。
つとむはそのことについて何も言わない。でも、がっかりしてるのはアタシにはバレバレだ。
助けてもらったお返しに埋め合わせをしたい気持ちはあったけど、アタシには何を出来るわけでもなく。
ただ、仕事の方が一段落が着いたから、次の任務の指示が来るまで少し余裕ができた。
せめてその時間をつとむの自由にしてもらおうってことで、ここ最近アタシは体をつとむに預けて大人しくしてる。
今もそう。
たとえ机に向かったつとむが固まっても、脂汗を流しても、うめき声を上げても、アタシはこの2時間ずっと・・・・・・あ。
――うわ、つとむ! ちょっとしっかり!
「・・・バーディー?」
いつの間にか机に突っ伏していたつとむに呼びかけると、緩慢な動作で顔を上げる。その様子はひどく頼りない。
――だいじょうぶ?
「ダメだ・・・何書いていいか、ゼンゼンわかんない・・・・」
今つとむが取り組んでいるのは、中杉さんへの手紙を書く作業だ。
『文化祭の写真、中杉に送るから、アンタもちゃんと手紙書くのよ! デジカメ持ってないことにして、わざわざコンビニで使い捨てカメラ買ったんだから! 感謝しなさいよね!』
と、早宮さんに厳命された(文化祭の当番をすっぽかしたことで怒らせてしまったようだ)つとむは、早速学校帰りに便箋を買って勢い込んで机に向かったわけだったんだけど・・・・
「あああぁぁぁだって、向こうはオレのこと忘れてるし、一体何から・・・・・」
この調子だった。
――そんなことばっかり考えてないでさ、つとむが言いたいこと、素直に書けばいいじゃない。
「でもさぁ・・・・・」
――情けない声出さないの!
「もうそんなに言うならバーディー書いてみろよ! 難しいんだぞ!」
――やってやろうじゃない、手紙くらい簡単なんだから!
言って、アタシは体を変化させた。
机に向かっていた少年の体は、アタシ自身の姿を取り戻す。
誰かに見られでもしたら大騒ぎになるところだけど、この部屋にいるのはアタシ達だけだ。問題はない。
鉛筆をぐっと握り、まず最初の一文字を―――
べきっ
――・・・・自分の使う分は、自分で削れよな。
半分の長さになってしまった鉛筆だけでなく、つとむからも不満の声が上がった。
「わかってるってば!」
・・・・確かに、ちょっと難しいかも。
「・・・終わったー!!」
――本当に早いし。
あっけに取られたようにつぶやくつとむに胸を張って(まあ向き合ってるわけじゃないんだけど)、アタシは体をつとむに渡す。
――こういうのは勢いが大事なのよ。ごちゃごちゃ考えてたら、まとまるものもまとまらないんだから!
「それはあるかもな。・・・ええっと・・・」
つとむは便箋を取り上げて目を通している。
集中したくて書いている間はつとむには見ないでいてもらった。だから、つとむはアタシの文章を今はじめて読んでいるわけだ。
でも、一分も経たないうちに、その目が紙面から外れる。
がっくりと首が下がったことで、視線がずれたせいだ。
「・・・・・・・・・・・・バーディー」
――何?
「・・・・・・・・・何だよこれ」
――手紙に決まってるじゃない。
「『近所においしいラーメン屋さんができたよ。食べに行こう。駅前の焼肉屋さんもすっごくおいしいんだよ。ここにも行こうね。それから、商店街のカレー屋さんは毎月一日がサービスデーで大盛りが割り引きになるんだよ。三丁目の食堂は、日替わり定食がおいしそうで毎日通いたくなるよね。五丁目の焼き鳥屋さんはタレが絶品、おごるから今度飲みに行こう。そうそう、デザートにちょうどいいケーキ屋さんとかあるといいよね。この町にもできますように。・・・・・』ね・・・・」
つとむがアタシの手紙を読みあげる。心なしか、そのトーンは普段より低い気がするけど。
「・・・・・・食べ物のことばっかりじゃないか!」
――だから、素直な気持ちを書こうっていってるじゃない!
怒鳴るつとむにつられて、アタシの声も荒くなる。
つとむは続けて叫ぶかと思ったけど、そうせず溜め息をついた。どうやら呆れているみたい。
「バーディーの素直は食べ物ってことか。最後なんか願望だし。七夕の短冊レベルだよ」
――タナバタって、お姫様の星と男の人の星が会える日のことだっけ?
「そうそう」
アタシの質問に、つとむは適当な返事。
――それでどうして願い事になるのよ? 地球のお祭りって変よね。クリスマスっていうのもよくわかんない。人の誕生日にどうしてプレゼントがもらえるの?
「知らないよ。俺が生まれた時には、もうそういう風に決まってた」
――ふーん。
「昔の人は、星が願い事を叶えてくれるって信じてたんだってさ。だから、流れ星にもお願いするし。クリスマスツリーにもてっぺんに星をつけるだろ?」
――・・・あの遠い星に届くほど強い願いなら、確かに叶うかもしれないよね。
「そうだな。・・・・・っと、できた!」
――え?
手元には、さっきの便箋が折られて三角の不思議な形になっている。
どうにも会話が投げやりだったつとむは、さっきからこれを作っていたみたい。
――何、これ?
「紙飛行機だよ。バーディー知らないのか? こうするんだ」
つとむはそう言って椅子から立ち上がると窓のところまで歩いていき、カーテンを開けて・・・・
「見てろよー。それっ!」
左手で窓を開けると「カミヒコウキ」を持った右手をすっと前に押し出す。
動作の途中で手を離したのか「カミヒコウキ」はまっすぐ前に向かってすうーっと進んでいって。
夜の空に、消えていった。
「いい風が来たなー。あんな遠くまで飛ぶなんてさ。もう見えないや」
つとむの満足そうな声。
アタシはようやく我に返った。
――ちょっと、なんでアタシの手紙捨てちゃうの! ひどいじゃない!!
「捨てたんじゃなくて、出したんだよ。手紙ってそういうものだろ」
――出した、って・・・・・だってあれは・・・・・・
「宛先が書けないから、普通には出せないけど。でも、短冊みたいなあの手紙なら、届くんじゃない? 七夕の願いが、空の星に届くみたいにさ」
アタシはつとむの言葉を黙って聞いていた。
つとむはわかってたんだ。手紙の最後に書いた言葉、
『また会えるよね。そしたら、一緒にご飯食べようよ』
あれが誰に向けられていたものなのかが。
「最近オレが中杉さんのこと考えてると、バーディーも何か考えこんでるみたいだし。それって、あの人・・・・ナタルさんのことだろ」
ナタル。消えてしまったアタシの幼馴染。
小さい頃からアタシを助けてくれて。あの時、セントラルタワーでアタシの命を救ってくれたのもまた彼だったのだと、アタシはこの前ようやく気付いたんだ。
『君が好きだ』
『君に会いに行くよ』
中杉さんのことを想うつとむを見ていると、彼のくれた言葉が胸をよぎる。
だからつとむが中杉さんのことを考えている時は、アタシはナタルのことを考えるようにしていた。
つとむだって、中杉さんに思いを馳せる時くらいは一人になりたいだろうと思って、こっそりそうしてたんだけど。
人のことは言えないな。アタシの気持ちもつとむにはバレバレだったんだ。
「きっとまた会えるよ」
――うん、アタシも信じてる。
会ったばかりの頃は、普通の男の子だったつとむ。
それが、アタシの捜査に協力するようになって。
リュンカに寄生された中杉さんを救い、アタシを記憶の中から連れ戻してくれて、アタシを守ろうとナタルの前に立ちふさがって。
いつのまにか、頼れるバディになってくれていた。
君がいれば、きっとアタシは大丈夫。どんな強い敵が来ても、挫けずナタルを待っていられる。
「――さってと!」
――うわっ、何だよ!
突然体を入れ替えたことに、つとむが驚きの声を上げた。
「手紙書くのはアタシの方がうまいってわかったでしょ。さっきのあれは出しちゃったから、新しいお手本を書かなきゃ!」
――あんなの手本にならないって! いい、自分で書く、その方がマシだ!!
随分ひどい言い草に、アタシも不機嫌になる。
「マシってどういうことよ! つとむなんて結局何にも書けなかったのに!!」
――バーディーの手紙は中身がムチャクチャだろ! あの通りにしたら、ナタルさん食べすぎでおなか壊すって!!
「だいじょーぶ! ナタルお医者さんだもん」
――いや、あの人病院勤めなだけで内科医じゃないし。・・・もういいから体貸せってば! 今度こそちゃんと書くから!
「そんなこと言ってまた2時間かかるんじゃないのー?」
――大丈夫だ! バーディーに書けたんだ! 俺にだってできる!!
「言ったわね〜」
急に強気になるつとむ。でも、アタシだって引かないんだから!
「じゃあ勝負しようよ。二人で手紙を書いて、どっちがいいものができたか競争するの」
――おもしろそうだな、やってやる。でも勝ち負けの判定はどうする?
「地球人の女の子宛ての手紙と・・・」
――宇宙人の男の人宛ての手紙か。
公平な勝負にするには・・・
「間を取って、地球人の男の人に見てもらうっていうのは?」
――当てはまる人いないじゃん・・・・。そうじゃなくて、逆にしてさ・・・・・・
それからしばらくして。
『宇宙人の女の子ということで、この2枚のどっちがいい手紙か判定してよ。お願いねー』という今時珍しい手書きの手紙(審査対象の2枚も含む)を受け取ったとある少女は、一人肩を震わせるのだった。
「銀河またいで、何送って来てんだああああああぁぁぁぁ!!!!」
「煩いですよカペラ・ティティス」
終わり
最終回で出番の無かった彼女がオチ担当。
流石にカペラがしでかしたことを知ったらバーディーもこんなに親しげじゃないと思うので、手紙はイルマ社長経由です。
「あれ、カペラちゃんいないのー? まあいいやこれ渡しといてよ」って感じで。
それと、最近の高校生ってもしかして鉛筆は使わない?
なんて思いつつ書いてみた捏造小噺でした。
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