天体戦士サンレッド 二期_ss『流れる雲とか沈む太陽とかの行方』 / テレビアニメ
こちらのブログではご無沙汰になってしまいました。
4月からのアニメ感想、何を書こうかなーと迷って「とりあえず一通り1話を見てから」という結論に落ち着きました。
既に2話を見ているものも有りますが、まだノイタミナとかあるので。
で。今日のところは以前少し触れた、アメブロの方にアップ済みのサンレッド二期最終話エピソードを元にしたお話をアップすることにしました。
こっちのブログにssあげるのは今年初でした(笑)。
かよ子さん目線でお送りします。サンかよ(で呼称はのかな?)です。
最終話のネタバレありますので、以下は続きから。
だから、通っていた幼稚園でも女子よりも男子と話が合ったように思う。
でも、それを気にしたことはなかった。男の子たちとテレビの話をするのが、その頃の自分には何より楽しかった。
けれど、ある日見たヒーロー物の最終回は、どうしても納得がいかなかった。
『待って! 行かないで!』
遠ざかっていく背中に、悲痛な声が投げかけられる。
それが聞こえているだろうに、黙って去っていく男。
真っ白な服が、地平線の向こうへと消える。女を一人、残して。
これをを見たのは、確か年長組の頃だったか。
同じ組の男の子たちには好評だったようだ。
彼らは口々に、去っていった若者への憧れの言葉を語り合っていた。
「でも・・・おねえさん、かわいそう。あの人、ひどいよ」
そう主張したら、男子たちは皆一様に「わかってないな」という顔をした。
「だってあの人はヒーローなんだぜ。よそで悪いことしてるやつらをやっつけて、困ってる人たちを助けなきゃいけないんだ」
だったら女の人も連れていけばいい、そんな自分の意見は何故か受け入れられなかった。
「一人で黙って戦いにいくのが、かっこいいんだろ」
「それに、悪いやつがヒーローを狙ってきた時あぶないじゃん」
「ま、女にはわかんねーよ」
その言葉に、自分は強く唇を噛んだ。
納得できない。
――どうして、いなくなっちゃうの? ヒーローさん。
その疑問への答えは見つからないまま、気付けば大人になっていた。
「ただいまー」
「おう」
仕事を終えて、家に着く。
リビングに寝そべってテレビを見ているその男はこちらを見もしない。
「何だ? かよ子」
「ううん、別に」
背中を向けたままでも、視線や気配はわかるらしい。
――こんなでも、一応、ヒーローだもんね。
真っ赤なマスクのその男こそ、神奈川県川崎市を守る正義のヒーロー、天体戦士サンレッド。
かよ子と同棲中の恋人である。
流れる雲とか沈む太陽とかの行方
顔を見るのを避けていた。かよ子とて、悪いとは思っていたのだ。
年末に、急に実家に帰るなんて。それも、お見合いのために。
――けど、何も言わないって何よ。
確かに、親の都合で断れなかったことだと説明した。
それにしたって。
――「嫌だ」はくらいは言ってもいいじゃない。
「なんで急に帰るのか」とか「お袋さんによろしく」とか、そんなことではなく。
――定職が無いとか、気にしてるわけ? そんなの今に始まったことじゃないじゃない。
そりゃあ、友人に話すと微妙な顔をされるし、別れようかと思ったことがないと言えば嘘になるけど。
電車の時間の都合で、仲直り――別に喧嘩をしたわけではないが――せぬまま、かよ子は家を出てしまった。
玄関で振り帰ったが、見送りは無い。最後に見たのは背中だった。
見上げた空、故郷の方角へと白い雲が流れていく――
* * * *
気持ちは沈むが、それを顔に出すわけにはいかない。それなりに着飾り笑顔を浮かべて、かよ子は見合いの席に着いた。
相手の男性は、かよ子と同い年だった。
父の上司の親類だというその人物は、意外なことを言い出した。
「僕、かよ子さんと同じ幼稚園だったんですよ」
隣の組だったと聞かされても、正直、かよ子には思い出せなかった。
「ヒーロー番組の最終回のことでケンカしたこと、覚えてますか?」
そう言われて、元気な男の子が何人か頭に浮かんだが、その中の誰かまではわからない。
ただ、ケンカについては朧気ながら覚えている。普段は気の強いかよ子が押すのだが、その時の男子たちはなかなか引かなかった。
「男の子って、やっぱりああいうヒーローに憧れるんですか?」
かよ子が聞くと、男性は照れ臭そうに笑った。
「悪を倒して、何も言わずに去っていく。そんな格好いいヒーローに憧れるんですよ。男っていうのは」
地位もまずまずで、収入だって十分。
容姿端麗とまでは行かないにしろ、色白で整った顔立ちだと思う。
でも、なんだろう。遠かった。
――早くうちに帰って、紅白見たいな・・・
窓から見える空には、たくさんの雲。出がけに見た雲も、この中に有るのだろうか。わからない。
どれかな、などとかよ子は空を探す。今の空には、何かが足りない気がして。
しばらくそうしているうちに、その不足が雲などではないことに気付いた。
――そっか、足りないのは・・・
一際厚く大きな雲に覆われて、その位置すらつかめない太陽。
その日、12月31日の故郷はずっと曇り空。ちゃんと着込んでいたはずなのに、かよ子は何だか肌寒かった。
* * *
見合いを終えて、よそ行きの服から着替えたかよ子はすぐさま帰り支度を始めた。
元より、乗り気では無かったのだから構わないはずだ。
ただ、父親は少し不機嫌そうだった。「何が不満なのか」と言いたいのだろう。
――女は現実的なのよ。
ロマンや憧れを抱きはしても、それらが現実とは異なって当然だと知っている。それに不満を感じたりはしない。
白い雲は綺麗だけど、消えてしまう。でも、それで平気だ。
けれど、太陽は違う。無くなってしまえば――
――洗濯物が乾かないじゃない。
かよ子は実家を出た。
不思議と爽快感が胸を満たす。もう寒くはなかった。
* * * *
まだ日のあるうちに、かよ子は神奈川の自宅に着いた。
けれど、ノブをひねってもドアは開かない。施錠されていた。
鍵を回してドアを開ける。
「ただいま?」
呼びかけても、返事は無かった。
真っ直ぐ廊下からベランダまでが見通せる。いつもテレビの前でぐうたらしている人物がいない。
鍵がしまっていたことを考えれば、留守なのは道理だ。
無職のあの男は、別に引きこもりではない。一人で出かけることもある。パチンコとか、煙草を買いに行くとか。
大した用では無いことがほとんどだけれど、ともかく出かけることだってある。だから、何も不自然なことは無い。
なのに。
――何でこんなに不安になるのかしら・・・
夕方になって風が出てきた。
赤く染まった雲たちはどんどん流されて、あっという間に見えなくなっていく。
ふとかよ子の脳裏に見合い相手の言葉が甦り、嫌な考えが湧き出でた。
――あの人も、やっぱり『格好いいヒーロー』に憧れた? 黙って、行ってしまった?
行くって何処へ? そんな場所、目星もつかない。ただ、わかるのは。
――そこは、あたしのいない場所だ。
だったら。
――止めなくちゃ。
絶対に。
かよ子は急いで家を飛び出した。
しばらく様子を見ようなんて、思えない。
そんな悠長なことをしていたら、日が暮れてしまう。
もし日没に間に合わなければ、あの人は本当に手の届かないところへと行ってしまう。
そんな気がしてならなかった。
* * *
いつもの飲み屋にも。パチンコ屋にも。フロシャイムのアジトにも。どこにもいない。
携帯も持っていないから、連絡も取れない。
かよ子にできるのは、走り回って探すことだけだった。
財布の中身が乏しいあの人のことだ、電車やバスは使わないだろう。
けれど、足では敵わない。いつもだるそうにしている割に、運動能力だけは大したものなのだ。こんな時、曲がりなりにもヒーローなのだと思い出す。
その割に、短気で不器用で、あまり格好いいとは言えないけれど。
でも。
――格好よくなくたっていいのよ、別に。
『格好いいヒーロー』なら、テレビの中に沢山いる。それで十分だ。
幼いあの日、かよ子が求めたヒーロー像は、そんなものではない。
* * *
日暮れまでもう間がない。焦るかよ子は駅前までやって来て。
とうとう、その背中を見つけた。
同時に、彼がそこにいる理由を理解する。
――お母さんからの留守電が録音されてたっけ。
すぐに帰ってしまった自分へのメッセージが、電話機に記録されていた。
間違えようも無い真っ赤なマスクの男は、真冬だというのに屋外の階段に腰かけて、改札口を見つめている。
かよ子はその後ろに立って、そうっと、手を伸ばした。
* * *
――明日の初日の出・・・きっとこの人はいつものように寝坊して、見ないんでしょうね。
並んで歩く、帰り道。
それも仕方のないことかもね、とかよ子は内心で苦笑した。
――自分が太陽じゃ、有り難みなんてないか。
納得したその顔を見て、隣の男は「なんだよ?」と首を傾げる。
その仕草は、妙にかわいらしかった。
この人はこんなところまで、格好良さと縁が無いらしい。
綺麗な真っ白の雲は、流れて何処か遠くの空へと行ってしまった。
太陽だって沈むけれど。
でも、次の朝、また登る。
本物のお日様のように激しく熱くはないけれど、だからこそ、近くにいたって火傷なんてしない。
すぐ隣。この距離がちょうどいい。
かよ子の家のこのヒーローは、そんな太陽の戦士。
終わり
こんだけ明確に恋愛物なのは初めてでございました。
詳しい後書きはアメブロの方にあります。ここから行けます。
それでは、今回はこのへんでー。
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