DARKER THAN BLACK -流星の双子- _ss『境界線上のあの日の自分』 / テレビアニメ
『ダーカー』ss、その2です。
前回の脇役話とは違って、今度はちゃんと(何その言い方)スオウの独白。
2話途中のシーンで、完成は3話を見た後でした。本日のアメブロへのアップ前にちょっと手直しをしましたが。
ネタバレ要素ありますので続きから。
ボクは慌てて室内に戻る。
肩のペーチャみたいに夜目がきかないから、明かりのついてない室内は薄暗くて辺りがよく見えない。
目当てのそれ――壁に貼られた写真だってそうだ。
でも、見なくったってボクははっきりと思い出せる。
ボクと、ターニャと、ニカ。楽しそうに笑った三人の顔が。
境界線上のあの日の自分
実を言うと、ボクは自分の写真っていうのはあまり持ってない。
これを言うと、いつもカメラを持ち歩いてるのに?ってみんな不思議そうな顔をする。
けど仕方ないじゃないか、ボクは撮ってるんだし。だから写れないんだよね。
家族で記念撮影、っていうのも・・・ママがいなくなってからは撮ったことなかったし。
これは、シオンが契約者になる以前からのこと。
どうも自分の写真を残したくなかったみたいなんだよね、パパが。
お仕事でしていた研究は軍にも関係することだったから、そのせいだと思う。
なんかこのへん聞くと、スパイ映画みたいでしょ。
それに、ボクの家には隠し部屋なんてものまで有ったんだ。信じられる?
でも、それはシオンのためのもの。ボクに関して言えば、至って普通だったんだ。
昨日までは、だけどさ。
今のボクは、映画のスクリーン内にいるような『謎の殺し屋』なんてのに狙われてる。
警察でもヒーローでもいいから、助けてほしい。
『王子様』に憧れるクラスの女の子たちの気持ちが初めてわかった。サーシャやエーリカは、そういう意味で言ってたんじゃないだろうけどさ。
隠し部屋が無くなっても、普通の女の子にはなれないものなんだね。
まあともかく、助けを待っても無駄だと思う。
ボクの周囲の人間の記憶を消したのは、たぶん軍だ。それだと警察は当てにならないだろうし、ヒーローの方はもっと望み薄。
パパは死んじゃった。シオンも何処かへ行ってしまって、家族は誰も・・・あ、ペーチャ、キミがいたね、ゴメン。
どうしてだろう、ほんとはきっともっと悲しいはずなのに。
気持ちは胸の中でひたすら渦を巻いて、流れ出そうとしてくれない。実感がわかないってこういうことなのかな。
今はその方がいいだろうからって、あえて触れないようにしてる自分は薄情なのかもしれないと思うけれど。
じゃあ、どうしたらいいっていうのさ。ボクは、自分の身はを自分で守るしかないんだ。
ターニャ以外の友達は無事だけど、もうボクのことを忘れてしまった。匿ってもらうことさえできない。
残っているのは、この秘密基地とニカだけ。他はみんな無くなっちゃったんだ。
昨日まで傍に有った全てがすごいスピードで遠ざかっていって、急に独り取り残された。そんな気分。
あの壁の写真だってこんなに鮮明に覚えているのに、あそこにはもう帰れない。
ボクら四人が、あんな風に笑い合うことは二度と無いんだ。
そう、四人だった。
あの一枚の中に見えるのはボクとターニャとニカだけど、あの場にはもう一人いたんだ。
「ちょっとスオウ、このカメラ大きくて持ちにくいーそれに重いー」
ボクが貸したカメラを慣れない手つきで構えていたサーシャ。
不平を言いながらも、彼女はボクたちに負けないくらい笑顔で。
ボクはそれを写そうと、いつも首から下げているカメラに思わず手を伸ばして空振り(目の前でサーシャの手にしっかり握られてたんだけど・・・つい、ね)、ターニャとニカを余計に笑わせたんだ。
ボクのことを忘れてしまったサーシャ。きっと、ターニャやニカについても同じだろう。
かつて同じ場所にいた四人なのに、フレームに収まったボクら三人と写し手の彼女の生きる世界は全く別のものになってしまった。
サーシャは生涯、ボクたちのこともこの写真のことも思い出すことはない。
でも。
ボクらがあの日一緒にいたという事実に変わりは無い。
そうだ。そのことに、今気付いた。
軍がみんなの記憶をいじったところで、それは本当のことを隠しているだけじゃないか。
その仕事をどんなに完璧にこなしてみたところで、真実は揺るぎもしない。
契約者がどれだけボクの日常を壊したところで、過去までは変えられない。
――これは、ここに残していこう。
ボクは壁から写真を外そうとしていた手を止める。
これは、証拠だ。
知らない人が見たところでわからないだろう。けれどこの写真は、ここでボクたち四人が友達だったことをひそかに主張し続ける。
――ざまみろ、軍め、契約者め!
オマエらにはこれの持つ意味なんてわからないんだ。
ボクは、オマエたちの思い通りになるばかりじゃないんだ。
――普通の女の子の力だってバカにできないんだからな!
脳裏に浮かんだ黒ずくめの男に言い放ってやった。
と。
「スオウ、まだかー? いつまで待たせるんだよ」
そう声をかけられて振り返ると、ニカが小屋の入り口に立っていた。
外で待っててもボクが来ないから、様子を見に戻ってきたらしい。
「ゴメン、すぐ行くー!」
ボクは慌てて返事をすると、肩の上のペーチャを落とさないよう気を付けながら駆け出す。
後ろは振り返らない。
もう後戻りはできないけれど。
でもわざわざ見返さなくたって、そこにある大切なものはわかっている。
だから、ボクは平気。大丈夫なんだ。
*****************************
あの頃のボクは、無力な普通の女の子で。
この時『未来』への一歩を踏み出せたのは、『過去』に確かなものを見い出したからだった。
でも、その先に出会うことになるのは。
変えることの叶わない『過去』に苦しむ、一人の契約者。
再会の時は、すぐそこで。
けれど。
不確定の『未来』を知るものは誰もいなかった。
終わり
◆後書き
不確定の『未来』ですが、アンバーさんは知ってたのかもしれません(イキナリ自分で台無しに)。
それはともかく、スオウのお話。かなり前に書いてますとは言ったような気もしますが、アップのタイミングを逃して最終回直前にすべりこみとなりました。
書いた時は、もちろん3話で秘密基地があんなんなるとは思ってませんでした。
いやー、派手に壊れちゃいましたね!(笑)
それはともかく、内容について。
この時点では普通の女の子だった彼女が契約者となり、過去が作られたものだと知るのはまだ先のこと。
そう考えると、ひどい話だなぁ・・・・。『東京マグニチュード8.0』ssもかなり酷かったですけど(そういえば、こっちの主人公も弟持ちの13歳少女でしたっけ)。
あ、このシーンは本編内では描かれていないので好きに想像したものです。アニメでは、スオウが立ち直った後はすぐ街だったと思うので。
そもそもの発端は、秘密基地に有った写真がスオウ・ターニャ・ニカの3人だったことでした。
それを見て「この写真は誰が撮ったんだろう?」と思ったんですね。スオウはカメラを構える側だったでしょうから。
で、それがサーシャだったら面白いのではないかと思いまして。
記憶を消されてしまった友人だけれど、その友情の証拠は確かに有る。
でもそれは同時に、フレーム内の3人と同じ世界にいないことの証拠でも有る、なんて。
まあ、実際は写真クラブの誰かが写したものなのかもしれないですが(笑)。
クライマックスになって、スオウの記憶は人為的に植えつけられたものだという事実が発覚しましたが、2年分は本当の思い出で。
だから、この話は成立すると思います。そこも偽りだった方が悲劇的には盛り上がるかもしれませんが(酷)。
過去に引きずられている黒との対比の意味もあってスオウには全面的に記憶・過去を肯定してもらいました。
年をとるほど、過去を全肯定できなくなっていくと思うんですよねー。子どもは無邪気だから、という意味ではなくて、長く生きるほど辛い経験をしている可能性も増えるだろう(うれしい経験もしているはずですが)という確率的な方向からして。
それから、タイトルの『境界線』とは。
日常と、非日常。人間と、契約者。子どもと、大人。『過去』を肯定的に見る者と、そうでない者。
など複数の意味を考えてつけました。
この時の、スオウは様々な境目にいて。それが、だんだんと境界を越えていったのだと思います。
ある点においては一気に、また別の面においてはゆっくりと。
最後の辺、『あの日の自分』を振り返っているスオウはいつの彼女なのか、っていうのは、決めてなかったりします。
全てが終わった後でも、東京へ向かう途中でもいける感じで。後者の場合は、既に電柱蹴ってると思います(笑)。
だって、○年後とかいうのが本当考えにくい作品だと思うのですよ。その時点まで生きてるかどうか安心が持てないというか。
現に、最終回をスオウが生きて終えられるかどうか非常にあやしい状況ですし。だから慌ててアップしたのですが(笑)。
お話としてはそんな感じです。
さて、『流星の双子』ももう終わり、スオウの結末を見届けたいと思います。
コピーとして生まれた彼女。
人は誰しも、いつかは死ぬわけで。
ここで終わるとしても、しっかり生きられたのなら、それはそれで立派だとは思います。
ただ、個人的な感情を言えば、スオウには生きてほしいです。やっぱり。
それは、死よりも辛い道なのかもしれないけれど。でも、いいことだってきっとあるはずだから。
と、いうところで締めたいと思います。
読んでくださった方、ありがとうございましたー。それでは!
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