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DARKER THAN BLACK -流星の双子- _ss『彼女にカンパイ、彼に合掌』 / テレビアニメ

 

 アメブロにアップ済の『ダーカー』ss。
 時期は1話後のいつか(不確定なのはないようにも関係して)。
 確か、3話を見た後に書いたものだったと思います。
 それは内容にはあまり関係ないですが。

 第1話のネタバレを含む話ですので、以下は続きから。



 気が付くと、アタシは見知らぬ場所に立っていた。
 辺りは霞がかかったようにぼやけていて、よく見えない。

 ――どうしてこんなトコにいる? そもそもアタシはどうやってココへ来た?

 疑問ばかりがいくつも浮かぶのに、答はひとつもわからなかった。
 どうにもぼんやりして、記憶をうまくたどれない。まるで、脳までこの霞に漬け込まれているようだ。

 とにかく、この状況はおかしい。
 それだけはわかったので、油断無く身構え、周囲を窺う。

 MI6のエージェントとして、これは基本だ。どんな事態であろうと冷静さを失わず、対処する。
 そんなことをしたところで駄目な時ってのはあるもんだが、それでもこれをおろそかにするやつは長生きできない。

 そんな当たり前のことを考えていたら(集中してなかったわけじゃない。情報不足の時は、わかってることを再確認するだけで少し気持ちが落ち着くんだ)、不意に背後から声が聞こえた。

「ずいぶんと早かったですね、エイプリル」

 驚いて振り返る。動揺したのは後ろを取られたからでも、コードネームを知られていたからでもない。
 声だ。この声には、覚えがある。

 ――でも、そんなはずは無い。ヤツは・・・

 しかし、振り向いたアタシの前にいつの間にか立っていた男は、先ほど思い描いた通りの人物だった。
 短い金髪に、整った顔立ちの白人男。

 真っ白なスーツで落ち着き払ったその姿を見ていると、寒冷地用の靴にコートのこちらの方がむしろ場違いな気がしてくる。

 出会った当初、その染みひとつない上着には何か仕掛けが有るんじゃないのかと聞いてみたら、全く同じ服がクローゼットいっぱいに並んでいる光景を自慢気に見せられたことが・・・違う、そんなことはどうでもいい。
 ヤツのコードネームは11月11日を表す・・・いや、だから、それもどうでもよくて。
 問題なのはこの男が既に――ああ、そうか。

「・・・そういうわけ、ね」
「そういうわけです。・・・残念ながらね」

 アタシの呟きにヤツが同意する。
 つまり、アタシは死んだのだ。目の前のこの男と同じように。
 それを聞いて、警戒を解く。
 長生きがどうとか考えるのはもはや無意味だ。

「思ったよりアッサリ来ちまったね」

 嘆息する。
 次にすべきことが全く無いっていうのは久しぶりで、どうしたらいいのかわからない。
 気の抜けた様子のアタシに、男は紳士然とした気障な仕草で手を差し伸べる。

「お疲れさまでした。よろしければ、私がエスコートさせていただきますよ」

 アタシは暫くぶりの笑顔に向けて、久々になる台詞を吐いた。

「旨い酒のある店に連れてってもらえるかい?」

 それを聞いてヤツ――生前、仲間たちにはノーベンバー11と呼ばれていた男――の笑顔にも、懐かしそうな色が混じる。

「ええ。いいところを見つけてありますよ。ただし、禁煙席でお願いできますか?」
「アンタの煙草嫌いは死んでも治らなかったようだね」
「貴女のアルコール好きと同じですよ。ただ、ここでは対価だからと嫌々吸う必要がないので助かってます。まるで天国ですよ」

 実際のところは知りませんがね、と付け加えるこの男の顔は本当に穏やかで。こちらまで安らいだ気分になる。
 唯一の気がかりはジュライを置いて来てしまったこと・・・と考えかけて、そんな心配は無用なのだと気付いた。

 ――これから飲みに行くんだ。子ども連れでないのが当然ってものじゃないか。
 まだ、アイツがここに来るには早い。

「あちらは寒かったようですね」

 厚着のこちらを見て、ヤツはそんな感想をもらした。
 確かにロシアは寒かった。けれど、もういいだろう。
 アタシは、コートを脱ぎ捨て、歩き出す。
 拾おうとする男を制止するため、一度振り返った。

「いらないよ。むしろ暑くなるまで飲むんだからさ」
「少しは控えた方がよろしいのでは?」

 苦笑するヤツに、アタシは断言する。

「何言ってんだい。フェミニストの紳士様が、仕事を丸投げしたお詫びにせっかく奢ってくれるっていうんだ。遠慮なんかしたら失礼ってもんだろう?」

 男の顔がひきつった。
 自分が最高の笑みを浮かべているのが、鏡なんか見なくたってわかる。それをそのまま向けてやった。

「どうかしたかい? 伊達男」
「・・・いえ、こんなことなら先に死んだりするのではなかったと」
「今さら遅いんだよ」

 後始末もせず、アタシとジュライを放り出したささやかな意趣返しだ。
 ジュライのやつが来た時には、アタシも含めて二人で怒られることになるだろう。

 この男が喫煙から解放されたってことはだ、あいつもここでなら、きっと普通の子どもみたいに怒ったり笑ったりするんだろう。
 それが見られるのはおそらく先だろうが、いつかは必ずその日が来る。今生の別れを心配する必要も無いのだし。

 それまでコイツと積もる話でもしながら、ゆっくり酒を楽しんでいればいいわけだ。
 暫くすれば、余興にぴったりの手品師だってくるはず。
 なんだ、言うこと無しじゃないか。

「全く、天国様々だね」

 財布をのぞき込んでいたヤツが、顔を上げて何言か反論しようと口を開く。
 それはあえて無視して、アタシは再び歩み始めた。

「ほら、さっさと案内しなよ。こっちはここに来たばかりなんだ」
「はい・・・」

 遠い目で呟く男の声は、まるで地獄の鬼にでも取っ捕まったみたいに情けない。
 アタシは可笑しくって、余計に笑った。

終わり



◆後書き

 こっちもアメブロからそのままになります。 
 えーっと、まずは誰もが思う点。
 天国に飲み屋が有るのか?という疑問への解答ですが。
 有るかもしれないじゃないですか。
 ということでお願いします。
 だって、誰も見たことないからわからないし。うむ。

 あと、何か紳士の彼がやや格好わるい件。
 きっと穏やかな場所にいたことで平和ぼけ気味なんですよ。
 そもそも、口調とかの行動のほとんどが脳内のイメージで構成されているので実際とはやや違うかも・・・
 でも、今さら復習してイメージ再構築するのがちょっと抵抗あって・・・。前作終了から今まで、それなりに長い付き合いなもので。

 それから、手品師ことオーガストさんの扱いがジュライくんと比べてえらい軽いのは書き手の思い入れの差の影響が大きいですね(笑)。
 ジュライくん待たせっぱなしでやってくる彼は、到着早々エイプリルさんに殴られるかもしれません。

 裏話的なことになりますが、この話には削った部分がかなり有ったりします。
 当初は飲み屋のシーンがメインのつもりだったんです。
 そこには、炎の中学生父娘やEPRメンバーとか亡くなった人たちがいたりとか。
 エイプリルさんはメニューの上から全部どころか店の酒全部注文して、その彼らに振る舞ったりとか(無論ノーベンバーさんの奢りで)。
 オーガストさんを「あの胡散臭い男」と評する伊達男に、エイプリルさんが内心「アンタが言うなよ。オールドムービー内にしかいないって。アンタみたいな英国紳士は」なんて思ったりとか。
 そんなネタがいろいろ有ったのですが、冗長になりそうなのでやめました。

 それからタイトルの「カンパイ」は「乾杯」と「完敗」をかけたものです。
 ちなみにこの辺にもボツネタがありまして・・・
 最初に思いついたタイトルは「帰ってきたヨッパライ」でした(笑)。
 流石にノーベンバーさんに申し訳なく思ったので断念したのですが。

 他にも、「地獄の沙汰も次第」「地獄の沙汰も次第」とか何故かギャグ風味のがやたらと出てくるのを引き止めて、まともっぽいのを考えてみました。

 天国とやらが本当に有るかはわかりませんが、戦いも対価もなく彼らが穏やかに過ごせる場所があってほしいです。
 そんな思いを込めて書いたエイプリルさん追悼ssでした。
 それではー。


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