宇宙をかける少女_ss『ナポリタンとアールグレイ』 / テレビアニメ





以前、この記事で触れたツボなコンビ(カップリングに非ず)のssを書いたのでアップします。
既に、アメブロのほうで公開しているものですがこのブログでも取り上げていた話題ですのでこちらからも見られるようにしておきます。
最終話後のお話なので、続きからどうぞ。
そういえば、アメブロのタイトルを変えたんでした。
一応、そっちも訂正しておきます。
アニメ・漫画二次創作小説の楽しい非日常の世界
http://ameblo.jp/hironika/
その日、老人は不機嫌だった。
彼は元来、出無精な質。ましてや腰を痛めていたとなれば、尚更我が家でゆっくりと養生したいところだ。
しかし彼の終の住み家は、思春期の衝動に突き動かされた一人の少女の暴走により先だって消失の憂き目に遭ってしまっていて。
おかげで騒がしいこの場所に老人は滞在を余儀なくされていた。
この場所はレオパルドコロニー内の一角のオープンカフェ。そのテーブルの一つに彼は腰掛けていた。
それはいい。問題は、カフェの面した路上で口論している二人――いや、一人と一体だ。
獅子堂の三女はまあともかく、珍しく自室から出たあの八面体は、何故こんなところにいるのだろう。
「枯れ葉キサマ、探してもらった恩を感じる気持ちはないのか!」
「何よ! ジャンプしたら、たまたまアタシがいただけなんでしょ!」
「くっ、挙げ足をとるとは…! キサマは最低だ枯れ葉ぁ!」
「アンタにだけは言われたくないわ!」
…しかし、本当にうるさい。50メートル程度でもいいから、なんとか頑張って移動しようか。
だが折角注いだアールグレイを先に…などと考えていた老人に、声をかける者があった。
「若い子たちは元気でいいわねー」
「…神楽」
ナポリタンの皿をテーブルに置いて老人の隣の席に腰掛けたのは若い女だった。
老人は彼女をちらりと見、不機嫌そうに眉を寄せてそっぽを向く。
「暇ならアイツラを黙らせろ。オマエの身内だろうが」
女は老人の険のある物言いを飄々とした笑みで受け流した。
それは老人のよく知る、この女特有の顔。
50年前と寸分違わぬそれに心が波打つのを感じていた老人は女の、
「うーん、それがアタシも身体の方がガタガタで。年はとりたくないものねぇ」
などという返答に追い打ちをかけられて今度こそはっきりと渋面を浮かべる。
心にも無いことを、という言葉を老人はどうにか呑み込んだ。
ここで彼女の皮肉に反応しては、思うつぼである。この女の狙いはそれなのだ。彼女とはそれなりに付き合いの長い老人は、そのあたりはよく心得ていた。
ナポリタンとアールグレイ
老人と女が出会ったのは半世紀以上も前のことである。
今も少しも容姿の変わらぬ女と違い、当時の彼は若かった(まあ当然の話なのだが)。
その頃の老人――いや、青年と呼ぶべきか――は若いながら科学者として比類なき才能を発揮し、「天才」「神童」など幾多の賛辞を欲しいままにしていた。
故郷において彼と肩を並べる者は誰一人おらず、いささか退屈を覚えていた青年は余所のコロニーへ留学することを思いつく。
と言っても、別に競い合える好敵手を探すためなどではない。
己の頭脳に敵う者など存在しないと固く信じていた青年が、そんなことをするはずもなかった。
本音は単なる暇潰し。長期の観光旅行程度のつもりだったのだ。
今でこそ閉じこもって暮らしている彼だが、昔は外への興味も少しはあったわけだ。
ただ、留学という形にしたのは奨学金目当てであり、ケチの片鱗の方は既に示されていたと言えよう。
それはともかく、青年が故郷を後にしたのは偶然と気まぐれの成せる業。どこまでも軽い気持ちで、彼はカークウッド・コロニーへと降り立った。
しかしそこには、彼の人生を大きく変える出会いが待っていた。
その相手こそ彼女――獅子堂神楽に他ならない。
初めての敗北を与えたこの女に彼は幾度も再戦を挑んだが、ただの一度として勝利を収めることはできず。
負けるたびに雪辱を誓ったのだが、果たすことは遂に叶わなかった。
宿敵ネルヴァルとの決戦に臨んだ神楽は、帰ってこなかったのだ。
それから50年が過ぎ、青年が年老い老人と呼べる頃合いとなった今になって、女は不意に戻ってきた。
若く美しい、あの頃と全く変わらぬ姿のままで。
なのに、彼には女を以前と同じようには見ることは最早できなくなっていた。
かつて見上げていた年上の女性は、今や孫ほどの年の娘となってしまっていたのである。
時が流れ、それにつれて年をとる。
こちらは、当たり前のことをしている。変化しないこの女の方が規格外だというのに。
どうしてこちらが、置いていかれたような思いを味わねばならないのか。
相変わらず、理不尽なやつだ。
のみならず、自分のこの感情を見透かしたうえでわざわざからかいに来るとは、性格の悪さまで変わらない。
老人は女を無視することに決めて、黙ってアールグレイに口をつける。
女の方も、そんな老人を何も言わず眺めていた。
50年前と同じ、意地になる年下の男の子を面白がる表情で。
それが余計に老人には面白くない。
あんなにもライバル視していたというのに、コイツときたらいつも涼しい顔でそれを受け流す。完全に見くびられている…子ども扱いもいいところだ。
今となってはこちらの方がはるかに年かさになっているのに、それでもこの扱いは変わらないというのか。
そんな気持ちが沸き起こり、この半世紀で刻み込まれた老人の眉間のシワが更に深くなる。
そこへ。
「あーもう、いつまでやってんのよアイツら!」
苛立ちを露にした少女の声に、女だけでなく老人も思わず顔を上げた。
「…獅子堂ナミ」
「あらナミ、どしたの?」
呼びかけられた金髪の少女――ナミはどうやらこの二人がいたことに気付いていなかったようで(独り言にしては随分音量が大きかった・・・というかあれは怒りが爆発しただけなのだろう)、こちらを見て露骨にイヤそうな顔をした。
紆余曲折を経て姉妹たちの元へ戻ることになった彼女だったが、まだ神楽には少なからず苦手意識を持っているようである。老人からすれば、それも尤もな気もするが。
「風音お姉ちゃんがバカ秋葉呼んでこいって言うからわざわざ来たってのに…アイツら、さっきからずっとああじゃない。いつになったら声かけられんのよ!」
憤りが神楽への気後れを凌駕したのか、不満を吐き出すナミ。
その指し示す先では、彼女の三番目の姉とそのパートナーたるコロニーAIがいまだ舌戦を続けていた(正しくは言えば後者には舌は無いが、文法上はこの表現でいいだろう)。
確かにあの様子では、当分終わりそうにない。
「コレの決着を待つとなると、しばらくかかるわよー。急ぎなら、止めに入るのをお勧めするわ」
あくまで気楽に言う神楽に、ナミはゲンナリとした顔になる。
「…アレに割って入れっての?」
「幸運を祈ってるわね」
あまりにあっさり言い切られ、これは食い下がっても無駄だと察したらしくナミは素直に引き下がった。賢明である(ただし老人の家を蒸発させてくれたのもこの少女なのだが。思春期の情動とはまったくもって恐ろしい)。
渋々というのがひしひし伝わってくる重い歩みながら、少女は一人、姉たちの方へと向かっていく。
二人のやり取りが終わったとみた老人は、手のカップに目を戻そうとした。
が。
途中視界に入った予期せぬものに、思わず目が止まってしまう。
女が、穏やかな笑みを浮かべていた。
老人――フリードリッヒ・オットー・ノーブルマイン(通称・フォン)の知る限り、獅子堂神楽という女の笑みは、常に不敵で力強く、余裕に満ちたものだった。
だが今の彼女のそれはまるで、ようやく歩けるようになった幼い我が子を見守る母のような・・・
昔、自分に向けていた笑みはもっと・・・
――ああ何だ、別に自分は見くびられていたわけでも、子ども扱いされていたわけでもなかったのだ。
今さら気付くとは、ずいぶん遠回りをしたものだな。
老人がふっ、と思わず笑みを溢すと、神楽は目ざとくそれを見つけ声をかけてきた。
「お、フォン。急に機嫌が良くなったじゃない」
老人はもう不機嫌になることはなかった。
さらりとそれに応じる。
「いやなに、オマエもしっかり婆さんになったものだと思ってな」
それを聞いて、彼女が眉根を寄せる。それは流石に言われたくないことだったようだ。
「あら〜? ちょっと聞こえなかったわねぇ。もう一度言ってくれるかしら?」
その様子に老人は内心ほくそえむと、年上の貫禄をみせつけるよう、余裕をたっぷり滲ませて言ってやった。
「何だ神楽、耳が遠くなったのか?」
自分の言葉にますます顔を歪める女、という若き日にはありえない光景に、「年をとるというのも、悪いことばかりではないようだな」と初めて思う。
彼は更に笑うとアールグレイの追加を煎れるために席を立った。
腰は少々痛むが、そんなものは些細なことだった。
終わり
以下余談。
「アンタたち、いつまで喚いてれば気が済むのよ! いい加減にしろっての!!」
響き渡ったナミの怒声に、歩きだそうとしていた老人が思わずバランスを崩して転び。
石畳に腰をしたたかに打ち付けて起き上がれなくなって。
勝ち誇った笑みを浮かべた神楽に手を差し伸べられ。
「やはり年などとるものではない…」と前言を撤回するその瞬間は。
あと4秒後に迫っていた。
本当に終わり
◆あとがき
『そらかけ』小説でジジイ視点・・・何度振り返っても前代未聞だと思います。
でもやっぱり神楽さんと博士のコンビが好きなんです。
まあ、神楽さんが好きなだけなんですけど。
小説版の黒さを含んだ彼女も、アニメ版の天真爛漫に無茶苦茶な彼女もどっちも良いです。
んで、この人絡みの人間関係として、秋葉&レオパルド+神楽さん&フォン博士の4人組が個人的にツボ。
旧友の爺さん婆さん(失礼な)と、喧嘩友達なそれぞれの孫って感じがたまりません。
最終話の博士の「神楽、オマエもだ」あたりはやり取りがあっただけで幸せになれました。お手軽です。
ナミはラストがあんまりだったんで、仲間に入れてあげたかったというか・・・最終話前に考えていた話なので和解前提だったというか・・・こんなラストが見たかったというか・・・まあ、あの後どうにか仲直りしたってことにしてください。
そういえば、イモちゃんがいないのは何故だろう・・・。多分、低スペックの三女さんと違って長女に何か仕事を与えられているんでしょう。
そして、なんでレオパルドは路上にいるのかといえば。そこは本気で考えていなかったり(いい加減)。
そうそう、博士の方が神楽さんより年下だったとか背が低かったとかいうのは自分の好みで作ったマイ設定です。
憧れと反発を抱いていた年上の女性は若いまま、自分だけ爺さんになってるとか・・・考えただけでもう、完璧に切ないシチュエーションだと思うのですよ(そんな状況に追い込むなという話)。
もちろん博士の過去も勝手に作ってますのでご注意。
そういえば、ほのかの妹(イグジステンズ)の一人の『フォン大好き』という公式設定には「博士・・・犯罪者だったんですね!」と心の中で思わず叫びました(勝手な)。
SORA KAKE GIRL
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