スパイダーライダーズ_SS『キミの瞳はソラの色』6 / テレビアニメ


『スパイダーライダーズ』ss、ラストです。
ひっぱるほど大したものでもないので、さっさとアップして感想に行くことにしました。
では、つづきから。
インセクターと戦っていたあの頃、地上から来た男の子・ハンターはよく遠い空を見上げていた。
そんな彼をコロナは初め地上を懐かしんでいるのかと思っていた。
ただそれにしては妙に明るい顔をしていることが気になったので、ある日何を考えているのか意を決して聞いてみると。
少年はあっけらかんとこう言った。
「だって、インナーワールドの空っておもしろい色してるからさ、見てるだけでオレ、楽しいんだ」
「空の色が…おもしろい?」
想像していなかった答えに戸惑いの表情を浮かべるコロナに、ハンターは続けて説明する。
「地上の空は、ゼンゼン別の色なんだ。見たらきっとびっくりするぜ」
興味を引かれたコロナが「どんな色なの?」と聞くと、ハンターは考え考えして言葉を紡ぐ。
「空色…って言ってもわかんないか。海とおんなじ…ってオレ、インナーワールドの海まだ見たことないっけ。そっちも地上のと色が違うかもしれないよな…」
考えこむハンターが珍しかったのでコロナは彼を覗きこんだ。
と、自分がおもしろがられていることがわかったらしいハンターは不満げに顔を上げ、はたと固まった。
その反応に面食らうコロナに、ハンターは顔をずいっと近付ける。
「わ! あった、あった!」
「えっ?」
突然大きくなった彼の声に、コロナは抗議の機会を逃してしまう。
そんな彼女にまるで気付く気配もなく、ハンターは続けた。
「コロナの目! 地上の空はそんな色なんだ!」
「ちょ、ちょっとあんまり大きな声出さないでってば、恥ずかしいでしょ!」
瞳を真っすぐ見つめられたままそんな風に言われ、何となく気恥ずかしくなったコロナはその気持ちをごまかそうと語気を強める。
が、鈍感な少年にそんな乙女心がわかるはずもなく、彼は無邪気に笑う。
「いいじゃん。空と同じ色の目なんて、カッコいいだろ。スケールでっかいぜ!」
「もう、ハンターってば! 空の色の目は・・・」
そんなやり取りがあって。
コロナは、空を見上げるハンターを遠慮なく覗き込むようになった。
そうすると、彼と必ず目が合って。
それが、何となく楽しみになって。
いつのまにか、彼女は・・・・
「・・・あれ?」
「ああコロナ、気が付いた?」
古い夢から帰ってきて、コロナは目を覚ました。
暫しぼんやりしていたが、青年――ハンターが自分を背負って草を掻き分けながら歩いていることに気付く。
「お、下ろしてよ! もう平気だから!!」
「うーん。確かに怪我はないみたいだったけど、この辺ちょっと足場悪いから、もう少し先でな」
慌てて言うも、ゆったりと先延ばしされてしまう。
何となく居心地の悪さ・・・というより、落ち着かなさをコロナは感じていた。
年頃の女の子としては、男の人に背負われるというのは、必要以上に意識してしまうものである。
気にしなくていいのよわたし! この人はハンターなんだから!
ちょっと背中がおっきくて逞しくなってたって、女の子の声に驚いて崖を踏み外すような・・・
・・・・でも、肩とかがっしりしてる・・・。もう、子どもじゃないんだ・・・・
さっきよりも距離が近くなって、ハンターの成長がよりわかってしまう。
目の前の青年が自分の知るハンターであると認める方へ気持ちは傾いたが、それでもまだ心の一部は追いつかない。
寂寥感。
自分の知らないところで変わってしまった彼に、寂しさを覚えた。
ふと、彼の首の根元に傷跡があるのに気付く。
「この傷は・・・?」
「それか? 地上で冒険中にヘマして怪我しちゃって・・・その時の傷だよ。治るまでに時間もかかったし・・・これがきっかけでみんなに頼りすぎてたなーって反省して、ちょっと自分の力だけで頑張ってみようって思ってさ、しばらく独りで冒険してたんだ。そのせいで戻るまでずいぶんかかったな。悪かったよ」
「そう、だったんだ・・・・」
自分の知らない間に、彼にもいろいろあったのだ。自分たちの距離がまた開いたように感じられて、心が沈む。
「そういえば、コロナも髪伸びたよな」
「・・・長さはそんなに変わってないわよ。結ばなくなっただけ」
気遣いの足りてない意見に、不機嫌になるコロナ。
さっきまでの寂寥感を散らして彼女の心を瞬時に怒りが占めた。
「あー・・・そうなのか・・・? いやー、インナーワールドの空、懐かしいなー。やっぱりここの空は緑なんだなー」
誤魔化しながら、背中をそろりと伺うハンター。
彼女の髪の長さを確かめようとしたのだろうが・・・・そこで不機嫌そうな瞳とかち合ってしまった。
「コ・・・コロナの目は、相変わらず空の色だなー・・・・」
それも、気まずさを紛らわすための言葉だったのだろう。
そんなことはわかっていた。
けれど目を合わせたことで、
――自分こそ相変わらずじゃない。ハンターの目、インナーワールドの空の色だ。
コロナは、そんなことを思う。
変わってしまったと思った彼の、変わらない部分。それを見つけて、ひどく安心した。
崖を落ちる直前感じた安堵の思いも、それが原因だったと気付く。
――しばらく見ないうちに変わっちゃったけど・・・うん、平気だ。大丈夫。
それだけのことなのに緊張が抜けて、何だかどっと疲れた気がする。
背中で脱力するコロナの様子を、流石にハンターも察したようだ。もっとも、その理由を全く分かってないようだが・・・
「えーと・・・そのな、つまり・・・・・」
呆れられたと思ったのだろう、あたふたし始める彼が可笑しくて、コロナは思わず笑いをこぼす。
「まあ・・・結果オーライ、かな・・・」
「あ、コロナ。それオレのセリフだぞ」
「いいじゃないの」
口を尖らせると少年の頃と変わらない雰囲気になる青年に、コロナは上機嫌で笑いかけた。
終わり
◆オマケ
「それにしても、覚えてたんだ。あの時の、わたしの目が地上の空の色と同じって話」
「まあなー」
打ち解けた様子で言葉を交わす二人を、離れた場所から見ている人影があった。
「いやー、なんかうまくいったみたいだねー・・・」
「よかったね、お兄さま」
ルメン王子とスパークル姫。
誰あろう、アラクナ王家の兄妹である。
「ハンター、見た目がずいぶん変わっちゃってたからねー。コロナは、ショックかもなーって思ったんだけど・・・」
「でも、やっぱり大丈夫だったわ。ステップやジャンプと遊んでるときのハンターは、昔とちっとも変わってなかったもの」
マナクルを持たずシャドウの行方がわからなかったハンターは、インナーワールドに降り立ってまずアラクナ城を訪れた。
彼はそこでコロナとシャドウの居場所を聞いて、アラージャ村へ向かったのだった。
その時ハンターと再会した兄妹は彼の変わりように驚き、コロナの心情を案じパートナーを連れてこっそりその後をつけてきていた。
「まあボクとしては、久しぶりにスパークルと一緒に出かけられて良かったかなー」
王子の本心はまあ、さておくとしよう。
「でも、早く帰らないとみんなが心配するわ」
「えー。せっかくだから、二人のところに顔出そうよー」
「もうお兄さまったら。みんなと連絡がつき次第、お城でおかえりなさいパーティーをすることになってるじゃない」
「でもさー・・・」
と、そんなやり取りをしている人間がいるなんてことは露知らず、こっちの二人の会話も続いていた。
「地上でよく晴れた空を見ると、思い出してたんだぜ、コロナたちのこと」
「ハンター・・・・」
高鳴る乙女心。しかしそれは、次の瞬間あっさりと打ち砕かれた。
「ああコロナやスタッグス元気かなーって」
「・・・・・・・・・・・・スタッグス?」
「うん」
「シャドウとかじゃなくて、スタッグス・・・?」
「だってあいつの目の色も、コロナと同じで地上の空の色だろ?」
スタッグス。
元四天虫で、正々堂々とした戦いを好む屈強な武人。
戦士としては、尊敬できる相手ではあるが。
乙女としては、同列に並べられると複雑な気持ちになるごっつい大男である。
「へー・・・」
変わってほしかった鈍感な部分は手付かずで帰ってきた彼に。
再会の喜びとは別の意味で泣きたくなるコロナだった。
「あれー? なんかコロナ落ち込んでない?」
「どうかしたのかしら?」
しかもこの二人の目撃者がいたことで、この時の彼女の一喜一憂は(後日行われたパーティーの席で)仲間中に知れ渡ることになる。
彼女の苦労は終わらない。
そう、終わらずに済んだ。
しかし素直に喜べた時間は、何故かあまりに短かったというが。
めでたしめでたし(断言)。
本当に終わり
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