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スパイダーライダーズ_SS『キミの瞳はソラの色』2 / テレビアニメ

 

 昨日の続き。2話目です。
 その日の朝の、コロナとシャドウとビーナス。
 最終回後の諸々の設定は、勿論勝手に考えたものですのでご注意下さい。

 では、続きから。




「おはようございます。コロナ」
「おはよう。コロナ」
「ビーナス、シャドウ、おはよう。いい天気ね」
 身支度を整えて居間へ出ると、コロナは起きていたスパイダーたちと挨拶を交わす。
 ハンターのマナクルに入れないシャドウに合わせて、ここ数年はビーナスも外に出ていることが多くなった。
 別に揃えたわけではないが、他のスパイダーたちもそうらしい。戦いが終わったことで、マナクルの中で休む必要も、ほとんど無くなったからだろう。
 だが、スパイダーたちは皆変わらずパートナーの力になってくれている。洗脳が解けたポーシャでさえ、兄のブルータスと離れてもアクーネとともにいることを選んだ。
 例外はシャドウだけだ。
 てっきりハンターと一緒に地上世界へ行くものだとコロナは思っていたが、それは故あって実現しなかった。
 アクーネによると、精霊オラクルの力が届かない地上ではマナクルは使えないらしい。ハンターはそれを聞いて、シャドウをインナーワールドに残すことに決めた。スパイダーのいない地上で誰かに見られたら、大騒ぎになってしまうからだそうだ。
 「地上にスパイダー似た生きものっていないのー? それのふりして誤魔化せば平気なんじゃない?」というルメン王子の提案にも、彼は首を縦に振らなかった。
 姿形という面でならスパイダーに似た生きものはいるけれど、それらは指でつまむことができるほどの大きさしかないのだという。
「どんなに大きくたって、手のひらに乗っかるくらいだぜ。シャドウなんか、もう怪獣だよ」
 誰が怪獣だ、とシャドウが抗議の声を上げるのをよそに、コロナはふたつの世界の違いに驚いていた。
 インセクターの恐怖に晒されていたインナーワールドの人々にとって、スパイダーライダーは希望そのもの。パートナーのスパイダーも、人間の心強い味方というのが一般的な認識だ。
 それが地上では怪獣扱い。
 インナーワールドと地上世界は単に有る場所が違うだけと思っていたコロナは、自分の考えの甘さを突き付けられたような気がした。
 アーシアン――地上の人間は災いを呼ぶという伝承はコロナも知っていた。幼い頃には「悪い子にしてるとアーシアンに連れてかれちゃうわよ」と姉たちによくおどかされ、やがて成長していくにつれ村の小さな子たちにその台詞を言う側へ回った。
 そんな子供騙しの迷信より、スパイダーライダーとして戦っていた彼女にとってはインセクターの脅威の方がよほど身近なものであって、アーシアンへの恐怖感は1ランク下に位置付けられている状態だった。
 更にハンターと接したことでアーシアンへの悪いイメージは完全に払拭され、地上世界への抵抗はいつしか薄れてきていた。
 今の会話は、そうしたコロナの意識を揺さぶるのに充分だった。
 近い場所だと思っていたからこそ、帰ることに反対しなかったのだ。

 ――それを今更、そこはわたし達の世界とは全然違うなんて言い出すの? そんなのずるい、卑怯だ。
 もしそうだと知っていたら、わたしは・・・

「どうしたの? コロナ」
「なんでもないのよ、ビーナス。ただ、お姉ちゃん達がいないから、なんでかなって思って」
 ビーナスの気遣わしげな声でコロナは我に返った。
 沈み込む気持ちを悟られぬよう普段通りを装って返事をしたが、パートナーの目には心配の色が浮かんでいる。
 それも無理からぬことだろう。村に着いてからというものの、コロナの様子はおかしかった。
 彼女はハンターがいたかつての日々をたびたび思い出してはぼんやりしていたのだ。
 そんなパートナーの様子に気付かないビーナスではない。
 コロナの方も、心配をかけている自覚もそれを申し訳なく思う気持ちもあるのだが、どうにもできないでいた。
 今夜の夢もそうだが、本人が意識してやっていることではない。気付けば思い出にとらわれているのだ。
 止めることが叶わないとなると、できるのは誤魔化すことくらいだ。
「ねえシャドウ、お姉ちゃん達は?」
 コロナはビーナスに背を向けるかたちになるようにその場にあった椅子にかけ、シャドウに向けて尋ねた。
 当のシャドウはこちらの思惑に気付く様子もなく、二人なら朝早くに出掛けたぞ、と返事をする。それはいいのだが。
「出掛けた?」
「ああ。二人一緒に隣村に行かねばならない用があったそうだ。コロナは疲れているだろうからゆっくり寝かせてあげたいと、黙っていたらしい」
「そっか。急に帰ってきちゃって、悪かったかな」
 ぽつりと呟くコロナに、そんなことないですよ、とビーナスが言う。
二人とも、コロナに会えてあんなにうれしそうだったじゃないですか」
「そうだとも。ちゃんと引き止めておけと、私など念を押されたからな。すぐに戻るだろう」
 苦笑混じりに続けるシャドウに、コロナは思わず眉根を寄せて物言いたげな表情を浮かべた。
「どうした?」
「シャドウの『すぐ戻る』はあんまり当てにならない気がする・・・」
「な、何?」
 不思議に思って聞いてみると、返ってきたのは予想外の答え。シャドウは面食らう。
「どうしてそうなる?」
 理由を尋ねるシャドウに、コロナはしばらく言い淀んだ後小さく漏らした。
「あの時も、そう言ったのに・・・」
「ム、『あの時』・・・? それはいつのことだ?」
 尻すぼみのコロナの言葉を聞き逃さず、更に踏み込むシャドウ。
 ビーナスが「もういいじゃないですか」と口を挟むが、彼には聞こえていないようだ。少しむきになってしまったらしい。
 コロナはシャドウのそんな様子に気まずそうに(怒らせるつもりなど毛頭無かったのだ)目を逸らしたが、圧力に押されて「3年前・・・」とだけ口にする。
 彼女のその弱腰ともとれる姿勢に勝機を無意識に感じ取ったのか、シャドウが僅かに語気を強める。
「3年も前? そんな昔の話を今持ち出さなくてもいいだろう」
 それを聴いたコロナが「昔・・・・」とだけ呟く。シャドウの言葉はなおも続いた。
「確かにあったのかもしれないが・・・・悪いが、心当たりがないな」
「ちょっと、シャドウ・・・」
「仕方ないだろう、ビーナス。それだけ時間が開けば、忘れてしまうのはよくあることではないか」
 がたりっ、と音がした。
 顔を向き合わせていたシャドウとビーナスが思わずそちらを見ると、手前のテーブルに両手をついてコロナが立ち上がっている。
 先ほど聞こえたのは椅子が引かれた音だったわけだ。だが、ただそれだけのことにしては、ずいぶんと大きく響いた気がする。
「コロナ・・・・?」
 ビーナスがパートナーの顔を窺う。
 そこにあった笑顔に、ビーナスは自分の不安が的中したことを知る。
 別にコロナは陰気な性格ではないし、笑うことが珍しいわけではない。
 けれど。
 今の会話の流れを考えれば、笑みが浮かぶことはないはずだ。
 作りでも、しない限りは。
「コロ・・・」
「そうよね。そんな昔に言ったことなんて、覚えてなくて当然よ。ごめんね、シャドウ。変なこと言って」
「い、いや別に謝るほどのことでもな」
「わたし、ちょっと出かけてくるね」
 ビーナスとシャドウの言葉を遮り、いやにきっぱりとコロナは言う。
 更に。
「だってほら、お姉ちゃん達がいないのに家にいてもしょうがないじゃない? うん、別に用があるわけじゃないよ。でも久しぶりに故郷を一人気楽にゆっくり見て回ろうかなー、なんて思っただけなの」
 つらつらと、やけに早口で流れる言葉。
 饒舌さの代償に、そこには感情がこもっていない。
 気圧されているビーナスとあっけに取られているシャドウを残し、コロナはスタスタと歩いて家から出て行ってしまった。



続く



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